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東京地方裁判所 平成6年(ワ)9039号 判決

原告 東京第一企業株式会社

右代表者代表取締役 安田吉之助

右訴訟代理人弁護士 八戸孝彦

被告 越井テル

同 越井康修

同 越井久雄

被告ら訴訟代理人弁護士 有賀正明

同 桑村竹則

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金一〇〇〇万円及びこれに対する平成六年三月二四日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二〇分し、その一一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一、三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金二一六七万四七〇〇円及びこれに対する平成六年三月二四日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は等価交換契約につき原告が被告らのため仲介行為を行ったとして、仲介契約又は商法五一二条に基づき被告らに対し報酬金を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は不動産の売買、仲介を業とする会社である(甲第一二号証)。

2  被告越井テル(以下「被告テル」という。)は、平成二年五月当時、別紙物件目録記載一、三の土地(以下「本件一、三土地」という。)の借地権を有していたところ、平成三年五月三一日、本件一、三土地を買い受け、その所有権を取得した。

被告テルの長男である被告越井康修(以下「被告康修」という。)及び二男である被告越井久雄(以下「被告久雄」という。)は、平成二年五月当時別紙物件目録記載二の土地(以下「本件二土地」という。)を所有(持分各二分の一)していた。

被告テルは、平成二年五月当時、本件一ないし三土地上に別紙物件目録記載四の建物(以下「本件建物」という。)を所有し、右建物において公衆浴場富士見湯を経営していた。

3  被告らと、株式会社トルテック都市建築設計事務所(以下「トルテック」という。)は、平成四年七月一三日、被告らが所有する本件一ないし三土地を、トルテックが本件一ないし三土地上に建築する建物を、それぞれ相手方に提供し、協同事業として等価交換することを合意してその旨の合意書を作成し、同月二〇日、右合意書の内容を具体化した基本協定書を作成した。右基本協定書によって、被告らは本件一ないし三土地の一部をトルテックに譲渡し、トルテックはその対価として、右土地上にトルテックが建築する建物の一部を被告らに譲渡すること、トルテックは被告らに対し、等価交換差金として二億二〇〇〇万円を支払うことが約定された。

そして、被告らとトルテックは、平成五年二月一九日、右の内容の等価交換契約を締結し、その旨の契約書を作成した(以下「本件等価交換契約」という。)。

4  なお、本件一ないし三土地上には、平成六年二月末ころ、クレドール阿佐谷という名称のマンションが建築された。

5  原告は、被告らに対し、平成六年三月一六日到達の書面によって、本件等価交換契約についての仲介報酬金二一六七万四七〇〇円を右書面到達後一週間以内に支払うように催告した(弁論の全趣旨)。

6  原告は、本件等価交換契約は原告の仲介行為によって成立したものであると主張し、被告らに対し、仲介契約又は商法五一二条に基づき、各自金二一六七万四七〇〇円及びこれに対する催告期間が経過した平成六年三月二四日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めている。

二  争点

1  仲介契約又は商法五一二条に基づく報酬請求の可否

2  本件における相当仲介報酬額

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1(仲介報酬請求の可否)について

(原告の主張)

(一) 本件の経緯―原告の仲介行為

原告は、被告らのため、次のとおり、本件等価交換契約の仲介行為をした。

(1) 原告は、平成二年五月一一日、知人の小泉閏(以下「小泉」という。)から、被告テルの長女の越井佐知子(以下「佐知子」という。)を紹介され、同女から本件一、三土地の借地権の期限が同年一一月に満了するが、本件建物(公衆浴場)を改装したときの借入金の元利金を弁済中であり、賃貸借契約を更新しようにも更新料の工面ができず、底地を買い取りたくともその資金を作ることもできないのでどうしたらよいかとの相談を受けた。

右相談に対し、原告は、佐知子に対し弁護士を依頼し契約の更新の交渉をしてはどうかと話をしたが、同女が争い事を望まないと消極的だったため、斜陽産業とも言われている公衆浴場を廃業し、思い切って本件一ないし三の土地上に、地主及びデベロッパーと交渉し、等価交換方式によってマンションを建築し、自己居住以外の取得居室を賃貸することを勧めた。

(2) 原告は、同月一四日、被告テル、佐知子及び小泉を、等価交換方式によるマンション建築等に実績のあるトルテックの代表者齋藤敏博(以下「齋藤」という。)に紹介した。

被告テルらは、熱心に齋藤に質疑を繰り返し、トルテックは等価交換の計画書を作成することになった。

原告は、同月一八日、トルテックから等価交換計画書を受領し、これを佐知子に渡した。

(3) 原告は、同年六月二日、小泉及び佐知子と打合わせをし、その後平成三年二月ころまで被告らとトルテックの間に入って打ち合せを重ねた。被告らの意見は必ずしも一致しておらず、原告は何度も被告らに呼び出され、本件建物の脱衣場やトルテックの応接室で意見の調整をし、時には被告らの要望で税理士にも参加してもらった。原告は、深夜一時に、被告久雄の経営する学習塾に呼び出されたことも三度あった。

(4) その後、平成三年三月から、平成四年二月まで約一年間、原告は佐知子らに何度か連絡したが、被告らの意見がまとまらないとのことで時日を経過した。

被告テルは、この間の平成三年五月三一日、株式会社三菱銀行高円寺支店から一億八〇〇〇万円を借り入れて、本件一、三土地を買い取った。

(5) 原告は、平成四年二月二〇日、小泉、佐知子に呼び出され、被告テルが銀行から借入をして本件一、三土地を買い受けたものの、借入金の元利金の支払に追われ、他方、土地の価格がどんどん低下しているので、早急に、原告が間に入ってトルテックとの等価交換の話を再開してほしいとの相談を受けた。

(6) 原告は、同年二月二二日、トルテックに新たな計画案を作成してもらい、小泉を通じて、被告らに届け、その後、同年三月三日にトルテックと、同月六日に小泉、佐知子とそれぞれ打ち合わせを行った。

そして、同月七日、トルテックで齋藤から被告ら三名と佐知子に対し等価交換についての説明があった。当日原告は、被告らと大塚駅で待ち合わせをしたが、被告らが遅れ、一時間、同駅で待った。

(7) その後、原告は、次のとおり被告らと打ち合わせ等を行った。

① 同年四月四日、小泉及び佐知子と打ち合わせをした。

② 同月一八日、トルテックで、被告テル及び佐知子とそれぞれ打ち合わせをした(被告らはこのときも一時間遅刻した。)。

③ 同月二〇日夜、小泉及び佐知子とトルテックを訪問して新たな計画案を受領した。

④ 同年五月六日の午前一時過ぎ、被告久雄と面会した。

⑤ 同月七日、トルテックで被告ら及び佐知子と共に公認会計士らの説明を受けた。

⑥ 同月九日、トルテックから被告ら宛の書面、計画案を預かって佐知子に届けた。

⑦ 同月一五日、小泉及び佐知子と共に丁野弁護士事務所を訪問した。

⑧ 同月二五日、原告会社に小泉及び佐知子の訪問を受けた。

⑨ 同年六月八日、小泉及び佐知子と打ち合わせた。

⑩ 同年七月三日、被告康修と大塚駅で面会した。

(8) 被告らとトルテックは、同年七月一三日、被告らが所有する本件一ないし三土地を、トルテックが本件一ないし三土地上に建築する建物を、各々相手方に提供し、協同事業として等価交換することを合意してその旨の合意書を作成し、原告は、立会人として右合意書に記名押印した。

(9) 被告らとトルテックは、同年七月二〇日、右合意書の内容を具体化した基本協定書を締結し、原告は、立会人として、右基本協定書に記名押印した。

右の基本協定書によって、被告らは本件一ないし三土地の一部をトルテックに譲渡し、トルテックはその対価として、右土地上にトルテックが建築する建物の一部を被告らに譲渡すること、トルテックは被告らに対し等価交換差金として二億二〇〇〇万円を支払うこと等が約定された。

右等価交換差金二億二〇〇〇万円は、被告テルが本件一、三の土地を取得するために借り入れた一億八〇〇〇万円の借入金などを返済するため、被告らの要望を受けて、原告がトルテックと交渉し実現したものである。

右基本協定書は、表題は基本協定書とはなっていても、その内容は等価交換契約そのものであり、ただ、等価交換契約書はトルテックが本件一ないし三土地上に建築する建物の建築確認取得後に締結することになった。

(10) 被告らと訴外会社は、平成五年二月一九日、等価交換契約を締結し、契約書を作成した。原告は、被告ら又はトルテックから右契約を締結することの連絡を受けなかったので、右契約には立ち会っておらず、後日トルテックから右契約を締結したことの報告を受けた。

右契約書は条文数がわずかに八条であり、基本協定書が二六条まであるのに対比して著しく簡単であり、その内容も基本協定書を再確認したにすぎない。したがって、被告らとトルテックとの間に等価交換契約が成立したのは実質的には平成四年七月二〇日というべきであり、平成五年二月一九日に締結された等価交換契約はその延長にすぎず、原告が被告らとトルテックを引き合わせたことと、その後の原告が間に入ってした交渉結果との集大成というべきである。

(二) 仲介契約の成立及び右契約に基づく報酬請求

(1) 被告らは、被告テルの長女である越井佐知子(以下「佐知子」という。)を代理人として、前項(2)の平成二年五月一四日、原告に対し本件等価交換の仲介を依頼した。

仮に、右の仲介の依頼が一度中断したとしても、被告らは前項(5)の平成四年二月二〇日、佐知子を代理人として、原告に対し、本件等価交換の仲介を依頼した。

また、遅くとも前項(8)の被告らとトルテックとの間に等価交換に関する合意が成立した平成四年七月一三日に、被告らは原告に対し、仲介の依頼をした。

(2) よって、原告は、仲介契約に基づき、被告らに宅地建物取引業法四六条に定める報酬を請求することができる。

(三) 商法五一二条に基づく報酬請求

仮に、仲介契約が成立していなかったとしても、原告は商人であり、その営業の範囲内で被告らのために等価交換契約を成立させるために尽力したものであるから、被告らに対し、商法五一二条に基づく報酬請求権を有する。

(四) 本件等価交換について作成された計画書において算出された事業費に仲介手数料が計上されているが、①原告は、被告らとトルテックのために本件等価交換契約を成立させようとしていたのであるから、それが成立した場合には被告らとトルテックの双方に対し仲介手数料を請求できる関係にあるのに、仲介手数料は土地代の三パーセントしか計上されていないこと、②その他の事業費の項目をみても、トルテックが直接支出すべき金額のみしか計上されておらず、移転費用等被告らのための経費は全く計上されていないことからみて、右事業費はトルテックが右事業に必要な資金を算出したものにすぎないから、右事実をもって、被告らが支払うべき仲介手数料が計上されているとはいえない。

また、原告が被告らに対し仲介手数料を請求しないと約束したことはない。

(被告らの主張)

(一) 本件の経緯について

(1) 原告の主張(一)(1)は知らない。被告らはこのころ既に公衆浴場を廃業することを決意しており、廃業後の敷地の有効利用について、右浴場の経理を頼んでいた税理士、浴場組合の人々、コンサルタントのビジョンクエスト、右浴場の向かいにある不動産業者などに相談していた。原告に対する小泉及び佐知子の相談は、被告らの依頼を受けていない佐知子の単独行動である。

(2) 同(2)一ないし五行目は、被告テルは否認し、被告康修及び同久雄は知らない。

同六、七行目は知らない。ただし、被告テル及び同康修は佐知子からこのときのトルテックの案を見せられたことがあるが、ビジョンクエストに持って行き相談したところ、良くないということだったので、佐知子が断った。

(3) 同(3)のうち原告が同年六月二日に小泉及び佐知子と打合せをしたことは知らず、その余の事実は否認する。

(4) 同(4)一ないし三行目は知らない。

同(4)四、五行目は認める。このころ、被告らは、浴場組合の人々から大塚工務店を紹介され、同工務店に工事を依頼することをほぼ決めていた。借入は、大塚工務店の作成した事業計画を銀行に提出して借りたものである。その後、平成三年一二月と平成四年一月に、越井家と大塚工務店とで手締めの席を設け、大塚工務店に工事を依頼する旨の口頭の合意が成立した。

(5) 同(5)は知らない。

(6) 同(6)一ないし三行目は知らない。

同四ないし六行目は、被告テルははっきりした記憶がなく、その余の被告らは否認する。

(7) 同(7)①は知らない。

同②は知らない。ただし、被告テルは、このころ、日時ははっきりしないが、佐知子に友人に会ってくれるよう頼まれ、足が痛いのに無理をして大塚駅まで行ったことがあり、そこで安田に会ったが、佐知子の婚約者かと思い驚いた記憶がある。

同③は知らない。ただし、平成四年四月ころの午後二時ころ、もう大塚工務店の工事が始まるというころに(建築確認も済んでいた。)、安田とトルテックの齋藤が初めて越井家に来て、トルテックで等価交換をしてくれと言ったので、被告康修が、大塚工務店で決まっていると言ってはっきり断った。齋藤は、そこまで話が進んでいるなら私は手を引くと言ったが、安田は、その後も二度ほど電話でしつこくトルテックを勧めてきたので、被告康修はしつこいと言って怒った。

同④は、被告テル及び同康修は知らない。被告久雄は、このころ安田と会ったことは認めるが、時間は午後八時三〇分から九時ころである。この時、安田は、被告久雄に、大塚工務店をやめてトルテックにした方がいいと言った。この話の中で、被告久雄が安田に同人が報酬を取るのか聞いたところ、一切取らないとのことであった。被告久雄は、安田がトルテックの役員であるとか顧問であるとか言っていたので、トルテックから報酬をもらえるからいいんだなと思って納得した。

同⑤は否認する。このころは大塚工務店で工事をやることになっていたので、被告らがトルテックに行くはずがない。

同⑥ないし⑧は知らない。被告康修と被告テルは、平成四年五月二八日、大塚工務店との合意書に押印した。ところが、このころ、佐知子は、被告テルに大塚工務店宛に、同被告に関する一切の書類はたとえ印鑑が押してあっても直接のサインがない限り無効である旨の手紙を書かせ、これを内容証明郵便で大塚工務店に発送した。右は安田が被告らと大塚工務店との間の話を壊すために佐知子に指示して行わせたものと思われる。このため、被告康修は大塚工務店に呼ばれ、同工務店の社長から契約を白紙に戻すと言われ、大塚工務店との話は壊れてしまった。

同⑨は知らない。大塚工務店の話がだめになってから、輝工務店とトルテックと、ミサワホームの三つの案で検討して、被告ら及び佐知子の家族四人で相談した結果、トルテックに決めたものである。

同⑩は否認する。被告康修と二人で会ったのではなく、被告ら及び佐知子がトルテックに行く途中、駅に迎えに来ただけである。

(8) 同(8)は認める。ただし、被告らが原告に立会人になるよう頼んだことはない。

(9) 同(9)一ないし七行目は認める。ただし、被告は、原告が立会人になるように頼んだことはなく、被告らの要請により、被告らが相談を続けてきたビジョンクエストが被告ら側の立会人となり、署名、捺印している。

同(9)八ないし一一行目は否認する。交換差金は、大塚工務店との合意内容と同じである。齋藤及び安田は大塚工務店からの横取りを目指しており、大塚工務店以上の条件を提示するのは当然のことであり、原告の尽力によるものではない。

同一二ないし一五行目は争う。

(10) 同(10)一ないし四行目のうち、安田が締約締結に立ち会っていないことは認め、その余は知らない。

同五ないし一一行目は否認する。

安田は、佐知子に手数料はすべて等価交換事業費の中に含まれているので越井家から報酬を取らないと言っていたが、基本協定書締結の直後から、被告らに金銭の要求をし出した。初めは会社の運営資金で困っているから三〇〇万円貸してくれ等と言い、被告らが約束が違うではないかと述べてこれを断った後もしつこく要求を続け、六六六万円を支払わなければうちの若い者をお宅にやるぞなどと恐喝まがいのことを言うに至った。原告は平成四年一一月に宅地建物取引業者の免許が切れており、契約締結に立ち会いたくても立ち会うことはできなかった。また、安田が被告らに金銭の要求をしたため、被告らが齋藤に抗議したところ、齋藤がもう安田には一切関与させないと述べたので、このことからも安田は契約に立ち会えなかったものと思われる。

また、基本契約書締結後、右のようなことがあったためと、その他にも条件でも問題があり、一時トルテックとの話も壊れかけたことから、被告ら側は有賀弁護士を、トルテックは小泉弁護士をそれぞれ依頼し、交渉をして、何度も話合いをした結果、条件がいくつか加わって(税金問題、完成保証等)、ようやく契約成立をみたものであり、この間、原告は全く関わっていない。

(二) 仲介契約及びこれに基づく報酬請求について

佐知子は被告らの代理人ではない。被告らは佐知子に代理権を与えたことはないし、佐知子にもそのような認識はなかった。佐知子は当初から自分は権利者でないと述べており、任されているなどと述べたことはない。現に原告は、佐知子に被告らを紹介してくれと何度も言っている。被告らの代表として行動していたのは被告康修である。したがって、被告らは、原告に仲介を依頼したことはない。

(三) 商法五一二条に基づく仲介報酬請求について

原告の主張は争う。原告は、トルテックから報酬を得る目的で、被告らに対し等価交換をトルテックとやるよう勧誘していたものであり、被告らに対し終始自分はトルテックの役員あるいは顧問であると名乗っており、現にトルテックから報酬を得ている。

(四) 本件等価交換契約は、被告らが土地を、トルテックが金銭をそれぞれ拠出し、この土地及び金銭を原資としてマンションを建築し、被告らとトルテックが、その拠出した価値の割合に従って、完成したマンションの専有部分を分けるという、被告らとトルテックの協同事業である。そして、右契約に関し作成された計画書には原告に支払うべき仲介手数料は被告らが拠出した土地及びトルテックが拠出した金銭の総体である協同事業費に計上されトルテックが支払う旨約束されていたのであるから、本件等価交換契約においては被告らが原告に仲介手数料を支払うことは全く予定されていなかったものである。

(五) 原告は、被告らに対し、被告らからは仲介手数料を取らないと述べ、被告らとの間でその旨の合意が成立した。

2  争点2(相当仲介報酬額)について

(原告の主張)

(一) 原告が被告らに対し請求することができる報酬額は、通常、宅地建物取引業者の報酬につき宅地建物取引業法四六条及びこれに基づく報酬に関する建設大臣告示第一五五二号に定める最高限度額の報酬が支払われている慣行があること、原告は前記のとおり本件等価交換契約の成立まで三年近くにわたって多大な努力をしていることから、右告示に定める最高限度額であると解すべきである。

(二) 右報酬額は具体的には次のとおり算定される。

(1) 本件報酬の算定の基礎となる当該交換にかかる宅地の価額は、①被告らがトルテックに譲渡した本件一ないし三の土地(地積合計五三五・二三平方メートル)の持分一二三八五五分の九五七二〇と②等価交換差金二億二〇〇〇万円の合計である。

(2) ①の土地の価格は平成二年五月一八日の計画段階においては一坪当たり六〇〇万円と評価されており、本件等価交換契約が締結された平成五年二月一九日当時は、値下がりはしていたが、一坪当たり四〇〇万円を下らず、右価格により計算すると、五億〇〇四九万円となる。

(3) ①及び②の合計額は、七億二〇四九万円となる。

(4) 右告示によれば、交換の場合の報酬額は、当該交換にかかる宅地もしくは建物の価額(当該交換にかかる宅地又は建物の価額に差があるときは、これらの価額のうちいずれか多い価額とする。)を、次の上欄に掲げる金額に区分して、それぞれの金額に次の下欄に掲げる割合を乗じて得た金額を合計した金額以内とすることになっている。

二〇〇万円以下の金額 一〇〇分の五

二〇〇万円を超え四〇〇万円以下の金額 一〇〇分の四

四〇〇万円を超える金額一〇〇分の三

(5) 右金額に右告示の最高限度額の割合を乗じると、報酬額は二一六七万四七〇〇円が相当である。

(三) 本件等価交換契約に関する基本協定書及び等価交換契約書によると、被告らのトルテックに対する債務は連帯保証とされていること、被告らがトルテックから取得する建物及びトルテックから支払を受ける等価交換差金二億二〇〇〇万円の各取得割合は被告らの協議に委されていることから、被告らの原告に対する報酬支払義務は被告らの連帯債務と解すべきである。

仮に、被告らの報酬支払義務が当然に分割されると解されるとすると、本件一ないし三土地について被告らが有した権利割合によって分割するほかはなく、これによれば、被告らの権利割合は被告テルが五三五・二三分の四三六・〇六、被告康修、同久雄が各五三五・二三分の四九・五八五となるから、報酬額は、被告テルが一七六五万八七〇六円、被告康修、同久雄が各二〇〇万七九九六円となる。

(被告らの主張)

原告の主張は争う。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  当事者間に争いがない事実、〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、平成四年一一月二一日まで宅地建物取引業者の免許を有していた株式会社であるところ、原告の代表者である安田は、平成二年五月一一日、知人の小泉から被告テルの長女である佐知子を紹介され、同女から、本件一、三土地の借地権の期限が同年一一月に満了するが、当時右土地上に建っていた公衆浴場であった本件建物を改装したときの借入金を弁済中であるため更新料の工面ができず、底地を買い取りたくてもその資金を作ることもできない、解決方法について被告ら間の意見が違っており同女が何とか話をまとめたいと考えているので力を貸してほしいとの相談を受けた。安田は、右相談に対し、公衆浴場を廃業し、等価交換方式によってマンションを建築し、自己が居住する部分以外の取得居室を賃貸することを勧めた。

(二) 安田は、右等価交換の話を実現するため、同年五月一四日、佐知子及び小泉を等価交換方式によるマンション建築等に実績のあるトルテックの代表者取締役の齋藤に紹介し、同月一八日ころ、トルテックが作成した右等価交換についての計画書を受領して、佐知子に届けた。

安田は、同年六月ころ佐知子の紹介で被告テルと会い、トルテック、小泉及び佐知子との間で平成三年二月ころまで等価交換についての打ち合わせをしたが、その後は、被告康修が大塚工務店との間で等価交換の話をしていたこと等から、被告らの間で意見がまとまらず、安田から何度か佐知子に連絡したものの、平成四年二月ころまでトルテックとの等価交換の話は中断していた。

被告テルは、この間の平成三年五月三一日、銀行から一億八〇〇〇万円を借り入れて本件一、三土地を買い取り、所有権を取得した。

(三) 安田は、平成四年二月二〇日、小泉及び佐知子から、トルテックとの等価交換の話を再開してほしいとの依頼を受け、トルテックに新たな計画案を作成してもらって佐知子に交付し、その後、平成四年三月ころ被告康修に、同年五月ころ被告久雄にそれぞれ初めて会ってトルテックとの等価交換契約について話をした。また、被告らは、原告の案内でトルテック方に行き、同社から等価交換の計画書についての説明を受けた。右の計画書では、トルテックから被告らに支払われるべき等価交換事業差金は二億円とされていたが、右交渉の過程で被告らから安田に対し交換差金を二〇〇〇万円増額した二億二〇〇〇万円としてほしいとの要望が出され、安田がトルテックと交渉した結果、トルテックは交換差金を被告らの要望どおり二億二〇〇〇万円とする条件を承諾した。

(四) 被告テルと同康修は、この間の同年五月末ころ、大塚工務店との等価交換についての合意書に調印したが、同年六月に右合意を解消した。そして、被告らは、トルテックを等価交換契約の相手方とすることを決定し、右のとおり安田を介してトルテックと交渉した結果、前記第二の一3記載のとおり、平成四年七月一三日、トルテックとの間で、等価交換につき合意書を作成し、同月二〇日右合意書の内容を具体化した基本協定書を作成した。安田は、原告代表者として右合意書及び基本協定書作成の場に同席し、立会人として原告の記名押印をした。

右基本協定書五条では、トルテックが原告に対し、交換差金として二億二〇〇〇万円を支払うこととされた。

(五) 被告ら及びトルテックは、右基本協定書四条で本件一ないし三土地上にトルテックが建築する予定の建物の建築確認取得後及び近隣問題の解決後直ちに等価交換契約を締結することとしていた。ところが、被告らは、原告が平成四年八月二六日付け書面により被告らに対し原告への仲介報酬を支払うよう請求したことに異議を述べ、トルテックに対し、安田は最初は手数料はいらないと言っていたのにそれを請求してきた、安田が契約締結に立ち会うのは好ましくない、トルテックにも不信感があるなどと述べ、安田が関与するのでは本件等価交換の交渉を進められないと言ってきた。このため、トルテックの齋藤社長は、本件等価交換契約を成立させるためには安田を関与させない方が良いと判断し、安田にその旨述べて今後は交渉に立ち会わないよう伝え、安田もやむなくこれを了承し、以後は交渉に関与しなかった。

(六) トルテックと被告らとの間の等価交換の交渉は、被告らが右のとおりトルテックに不信を持ち弁護士に依頼したため、トルテックも弁護士を依頼し、右の弁護士同士で交渉した結果、平成五年二月一九日、本件等価交換契約が締結され、その旨の契約書が作成されたが、右契約書の内容は、基本的に前記基本協定書の内容と同じであった。

原告は、右等価交換契約書が作成された後、トルテックから仲介報酬として合計一〇〇〇万円の支払を受けた。

2  右認定事実によれば、原告の代表取締役である安田は、トルテック及び被告らの双方に等価交換契約の締結を勧め、当事者双方の調整に努めた結果、本件等価交換契約を成立させるに至ったものと言うことができる。もっとも前記認定によれば安田は基本協定書が締結された後、本件等価交換契約の締結までの交渉には関与していないが、本件等価交換契約の内容は基本協定書の内容と基本的に同じであったから、右の間の交渉に関与しなかったことは、何ら原告の仲介行為と本件等価交換契約の締結との間の因果関係を否定するものではない。

原告は、被告らが佐知子を代理人として平成二年五月一四日又は平成四年二月二〇日に原告との間で仲介契約を締結した旨主張するが、右各時点において、被告らが佐知子に原告への仲介を依頼する代理権を与えていたことを認めるに足りる証拠はない。また、原告は、右認定の等価交換に関する合意が成立した平成四年七月一三日に、被告らが原告との間で仲介契約を締結した旨主張するが、右合意成立の事実から直ちに仲介契約が締結されたと認めることはできず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、仲介契約に基づく報酬請求は失当である。

しかしながら、原告は、不動産の売買、仲介を業とする会社であり、宅地建物取引業者の免許を有していたところ、商人がその営業の範囲内において他人のためにある行為をしたときは、商法五一二条により相当の報酬を請求することができ、仲介業者は仲介の委託を受けない相手方当事者に対しても、客観的にみて当該業者が相手方当事者のためにする意思をもって仲介行為をしたものと認められる場合には、同条に基づく報酬請求権を取得すると解される。

これを本件についてみるに、原告が前記のとおり当事者双方の調整に努めて本件等価交換契約を成立させた行為は原告の営業の範囲内に属する行為であるということができ、かつ前記認定によれば、原告は被告らから、トルテックが被告らに支払うべき交換差金の増額を要望され、右要望に基づきトルテックと交渉して要望どおりの増額を実現するなど、客観的に見て被告らのためにする意思を持って仲介行為をしたものというべきであるから、被告らは原告がした仲介行為につき、商法五一二条に基づき相当額の報酬金を支払う義務を負うといわなければならない。

3  〈証拠〉によれば、本件等価交換につき作成された等価交換計画表にはトルテックの支出する事業費として仲介手数料二〇〇〇万円余りが計上されていることが認められるところ、被告らは、仲介手数料が事業費に計上されていることから、原告に支払うべき仲介手数料はトルテックが支払う旨約束されており、被告らが仲介手数料を支払うことは予定されていなかった旨主張する。しかしながら、証人青木及び同齋藤が右事業費はトルテックの必要とする資金を算定したもので被告が支払うべき仲介手数料を含んでいない旨証言していることに照らすと、右事業費に仲介手数料が計上された事実から、トルテックだけが原告に対する仲介報酬を負担する旨約束されたことを推認することはできず、他に右約束があったことを認めるに足りる証拠はない。

また、被告らは、原告が被告らに対し、被告からは仲介手数料を取らないと述べた旨主張し、乙第一号証中には右主張にそう部分があるが、右供述部分は原告代表者本人尋問の結果に照らし採用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告らの右主張はいずれも失当である。

二  争点2(報酬額)について

1  〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、平成二年五月当時に作成された等価交換の計画書においては本件一ないし三土地の価格は一坪当たり六〇〇万円と評価されていたこと、本件等価交換契約締結日の平成五年二月当時に値下がりしていたとしてもその価格は一坪当たり四〇〇万円を下ることはないと認められる。そして、右契約当時の評価額に基づき、宅地建物取引業法四六条に基づく建設大臣告示第一五五二号の定める最高限度額の割合により仲介報酬額を計算すると、二一六七万四七〇〇円となるところ、原告は、宅地建物取引業者の報酬につき、右告示の定める最高限度額の報酬が支払われている慣行があると主張するが、右慣行を認めるに足りる証拠はないから、右最高額の報酬が相当報酬であるとはいえない。

そして、前認定の原告代表者である安田の仲介行為の内容や、本件において被告らに、トルテックが原告に支払った報酬額を超える額の報酬額を負担させるのを相当とするような事情が窺われないこと等を考慮すると、被告らが原告に対し支払うべき相当仲介報酬額は一〇〇〇万円と認めるのが相当である。

2  なお、〈証拠〉によれば、本件等価交換契約において被告らがトルテックから取得する建物及びトルテックから支払を受ける等価交換差金についての被告らの取得割合は被告らで協議して決定するとされていること(等価交換契約書七条)が認められ、右事実によれば、被告らは原告の仲介行為により、等価交換契約上不可分的に利益を得たものといえるから、被告らの右報酬支払債務は不可分債務と解するのが相当である。

三  以上の事実によれば、原告の請求は、金一〇〇〇万円及びこれに対する前記催告期間が経過した平成六年三月二四日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが、その余の請求は理由がない。

(裁判官 阿部正幸)

〈以下省略〉

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